ティントレット鑑賞のコツ

マニエリスムの画家、ティントレットの作品を鑑賞するにあたって、忘れてはならない作品を3点、紹介しよう。

奴隷を救う聖マルコ

水の都、ヴェネツィアを代表する美の殿堂、アカデミア美術館・・・中でもヴェロネーゼやティツィアーノの大作が並ぶ第10室は圧巻である。その第10室においても圧倒的な存在感を持って掛かっているのがこの作品「奴隷を救う聖マルコ」である。

「劇的」という形容詞がこれほどぴったりくる作品は他にないであろう。天井より飛来する聖マルコは逆光であるばかりか、足をこちらに向け、頭をずっと奥にして描かれている。「短縮法」というのだが、この絵を見たときに鑑賞者は画面の真ん中、上方の真っ黒な塊である聖マルコにくぎ付けになり、そのまま聖マルコによって一気に画中に引き込まれていくのだ・・・素晴らしい演出である。この時ティントレット、若干28歳・・・恐るべき才能である。

天国

サンマルコ広場に面して、歴代のヴェネツィア総督が住んだドゥカーレ宮殿という建物がある。その中の「大評議会の間」を彩る大作である。なんと縦7メートル、横22メートル!あのミケランジェロの「最後の審判」が縦14.4メートル、横13.3メートルであるから、面積としてはほぼ同じである。ミケランジェロが「最後の審判」を描いたのが66歳の時だったのに対し、ティントレットが「天国」を描いたのは70歳~74歳であった。すごいな・・・このすごさというのは自分が年を取ってみないと分からない。体が言うことを聞かなくなるというのは精神に重大な影響を及ぼすものなのだ。

そして、大画面もさることながら、その画面を覆いつくす人の群れ、群れ・・・いったい何人の人がいるのであろう・・・そうした大人物群という点では、確かにティントレットという人はミケランジェロの後継者なのであろう。だが、この息苦しいほどの濃密な画面はどうだ・・・このしつこさ、暑苦しさ(誉めているのだ)はまさにマニエリスムの巨人の面目躍如といったところであろう。

最後の晩餐

サン・ジョルジョ・マッジョーレ聖堂といえば、ターナーやモネの絵にも登場するヴェネツィアのシンボルのような建物である。その内部を飾るのがティントレット最晩年の「最後の晩餐」である。ホントにこの人は「ミスター・ヴェネツィア」と呼んでも良いような人である。

さて、「最後の晩餐」といえば我々はとかくダ・ヴィンチのものを連想してしまう。それは構図といい、色彩といい、均衡、調和のとれたもので、どこか人間離れした絵画の中の世界である。だが、ティントレットのこの作品を前にすると、キリストが実際に体験した「最後の晩餐」とはまさにこういうものだったのではないかと思えてくる。この劇的で、濃密な空気はどうだ・・・切れば血の出るような絵画とはこういうものをいうのであろう。

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