ティントレット鑑賞のコツ

マニエリスムといえば忘れてはならないのがティントレットである。ティントレットは何者なのか、その作品にはどんなものがあり、どこで見られるのか・・・いわばティントレットの鑑賞のコツをお伝えしよう。今回はまず、その人となりから。

ティントレット―なのものか

ティントレットはあだ名である。何度も言うが、この時代、画家はあだ名で呼ばれることが多かった。ティントレットとは「染物屋の息子」という意味である。生家の家業が染物屋だったのだ。

油絵の具を使ったことのある方なら例えば「バーミリオン チント」などという表示を目にしたことがあるはずである。チントは染料の意であり、本来顔料を用いなくてはならないところに染料を用いたということなのである。なぜなら顔料は高価だから・・・だから絵を長持ちさせたいと考えているのなら、しんどくても「チント」の表示のある油絵具を使ってはならない。

やり手の経営者

さて、ティントレットである。1518年、ヴェネツィアに生まれた。本名はヤコポ・ロブスティ。才気煥発な青年だったようで、17歳であのティツィアーノの工房に入るのだが、嘘か誠か、親方ティツィアーノの嫉妬を買ってわずか数日で追い出されたという。

その後、様々な工房で修業を重ね、なんと21歳で親方となる。この人は画家としての才能だけではなく、今でいう「セルフ・プロモーション」の能力にも長けていたようだ。よく知られた話だが、聖ロッコ同信会というヴェネツィアでは有数のカトリック系団体が集会所の天井を飾るためにコンペを開いた。我こそはと思うものは〇月〇日、デッサンを持参するようにと言うアナウンスをヴェネツィアの町に流したのだ。名乗りを上げた4人の画家(その中にはティントレットも含まれていた)が当日、集会所に行ってみると・・・なんと、集会所の天井にはすでに完成した油彩画がはめ込まれていたのである。それも見事な出来栄えの・・・もちろん作者はティントレットであった。事前に天井の寸法を入手し、前日までにセッティングしておいたというわけだ。なんと強引な・・・しかし、その見事な天井画を見た同信会役員は天井画ばかりか、側壁面を飾る絵も彼に発注することに決めたという・・・このときティントレット46歳。

だが、彼の成功に向けてのストラテジーが発揮されたのはこの時が初めてではなく、それまでにも32歳で地元の名士の娘を妻に迎えるなどして、地道に絵の注文を増やしていたのだ。

ミケランジェロとティツィアーノ

さて、肝心の作品だが、彼の工房には「ミケランジェロの素描、ティツィアーノの色彩」という言葉が掲げられていたという。この時代、成功を夢見るイタリアのアーティストにとって、この二人はまさに仰ぎ見る大きな二つの頂であったろう。

ちなみにティントレットは絵を描くにあたって、その場面の小さな舞台模型を制作。そこに人形をおき、光の当て方など工夫して構想を練ったという。なるほど。そう言われてみると、彼の画はある種のジオラマを思い起こさせなくもない。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です