ドイツが生んだ偉大な肖像画家、ハンス・ホルバインの作品を鑑賞するコツをお伝えしよう。
ホルバインの生涯
ハンス・ホルバインにはよく(父)とか(子)とか但し書きが付くのだが、一般に肖像画の名手で知られるのは子の方である。1497年、ドイツ、アウグスブルグに生まれた。父のもとで絵画の修行を積んだ後、スイスのバーゼルに移り、木版画などを手掛ける。バーゼルではあのエラスムスと親交を結んだという。
おりしも宗教改革の火ぶたが切って落とされたところで、バーゼルにも宗教改革の波が押し寄せ、画の注文が激減した。なぜなら、当時、画の注文は圧倒的に宗教画が多かったからである。エラスムスの紹介でトマス・モアを知り、イギリスへ渡る。ホルバインは29歳であった。
イギリスでは宮廷画家となり、多くの著名人の肖像画を手掛けた。国王、王妃をはじめ、なかにはあのオリバー・クロムウェルもいた。だが1543年、ロンドンでペストが流行すると、ホルバインも感染。46歳であっけなくこの世を去ってしまう。
商人ゲオルク・ギーゼ
では、次に彼の作品を見ていこう。まずは、ベルリン美術館にある「商人ゲオルク・ギーゼ」から。1532年.ホルバイン35歳の時の作である。ホルバインの絵を見ると「バルール(色価)」という言葉を思い出すな・・・この絵に描き込まれているすべてのものの位置関係を見てほしい。すべてがピシッとあるべきところに収まっているではないか。
サー・トマス・モア
ニューヨークのフリック・コレクションにある。1527年、ホルバインなんと30歳の時の作品である。うーん、いったいいつから絵画修業を始めれば30歳でこんなに素晴らしい肖像画が欠けるのであろうか・・・背景の緑のカーテン、トマス・モアの赤いビロードの袖口が何とも美しい。
ちなみにこの作品はフリック氏の書斎だったところ、本棚や暖炉の間に掛けられていたと記憶しているが、このインスタレーションがなんとも憎い限りである。ニューヨークに行ったら、メトロポリタンやMoMAだけではなく、ぜひフリック・コレクションも訪れるべきである。
リチャード・サウスウェル卿の肖像
フィレンツェ、ウフイツィ美術館にある。ウフイツィは欲張りな美術館である。あんなに良いものをたくさん持っているのに、そのうえ、なぜまだこんなに良いものを持つ必要があるのか。1536年、ホルバイン39歳、円熟期の作と言ってよいだろう。
エラスムスの肖像
ルーブル美術館所蔵。1523年の作である。ホルバイン、若干26歳。この時エラスムスは57歳のはずだ。これだけの肖像を23歳で描いたホルバインも素晴らしいが、31歳も年下の画家の力量を見抜いたエラスムスも素晴らしい。
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