ブリューゲルのイチオシ3枚

ピーター・ブリューゲルのイチオシ作品を3枚紹介しよう。そもそもピーター・ブリューゲル(父)の作品は今に伝わっているものが限られており、どれも素晴らしいのだが、その中からあえて「見ないで死ねるか」とでもいうべき3枚をピックアップする。

イカロスの墜落

ブリュッセルのベルギー王立美術館にある。1555年~1558年頃というから、ブリューゲルがアラサーの頃の作品である。アントワープの画家組合に親方として登録され、イタリアでの修行も終えて描かれたこの絵は、なるほどフレッシュである。ではあるが、同時に不気味でもある。

マゼランが世界一周を成し遂げたのは1522年。この絵が描かれた時期はそれから30年以上が経っており、地球が球体であることも人口に膾炙してはいたであろう。とはいえ、地平線をこのように極端に丸めるという発想は、当時の他の画からはうかがい知れない。

そして、手前の農夫から中景の羊飼い、やがて海面に墜落しているイカロスと視線は誘われるわけだが、なにやらこの遠近感は極端で気味が悪い。先の地平線の丸みとも相まって、まるで度の強い眼鏡でもかけているような錯覚に陥る。画面の明るさといい、この絵をじっと見ていると狂気の世界へと連れていかれそうな気がする。

バベルの塔

いわずと知れたブリューゲルの鉄板中の鉄板作品と言っていい。ウィーンの美術史美術館にある。1563年、ブリューゲルが19歳も年の離れた師匠の娘を娶り、ブリュッセルで新生活を始めたころである。ブリューゲル、円熟期の作と言ってよく、色彩といい塔の立体感といい、素晴らしい出来である。

途中で崩れてしまっている塔の断面は、じつは遠近法がかなり極端な形で使われており、それゆえ天にも届こうかというバベルの塔の巨大さがよく表されている。塔の周りの街並み(ブリュッセルも街並みだといわれている)や人物は、さながらジオラマでも見ているような気分にさせてくれる。ブリューゲルは描き込んでいてさぞ楽しかったに違いない。

雪の狩人

私が小学生の頃、図工の教科書の裏表紙にこの絵が載っていた。当時住んでいた岐阜県可児郡(当時は市ではなく群であった)の雪景色に何となく似ていてとても親しみを感じたのを覚えている。ブリューゲルはイタリアでの修行の帰り道、アルプスを通過して雄大な景色をたくさん描きとめたという。モスグリーンの空は、まさに冬の雪国のものであって、何とも物悲しくて良い・・・

狩人が連れている犬の形はなんだかおかしい・・・でもこのおかしさはアルプス以北の画家のものなのであろう。一方で焚火の表現などはじつに真に迫っていて胸にじんと来るものがある。

ちなみにこの絵もウィーンの美術史美術館にある。わたしはもう30年近くも前にこの絵を現地で見たのだが、思っていたよりも薄塗りであったことに驚いた記憶がある。それほどまでにこの絵は堅牢だということなのであろう。ちなみにこの絵は1565年作。最晩年の作と言っていい。ブリューゲルの最高傑作だとわたしは思う。

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