じつは北斎は春画においても超一級、スゴイ腕前の持ち主なのである。現代の日本人は春画と聞いて眉をひそめる人が多いかもしれないが、西洋では、たとえばローマ時代には、あのポンペイの壁画に男女交接の図が描かれていたし、クリムトも素描ではあるが、大変質の高い春画を多く描いている。

あの「北斎漫画」で人のあらゆる営みを描いた北斎である。人の営みの重要な一角を担っている「性」を描かぬはずがない。
そうしたわけで、今回は北斎のスゴイ春画3点を紹介する。
喜能会之故真通「海女と蛸」1814年
素晴らしい!素晴らしい!まだ足りないのでもう一度、素晴らしい!ちなみにこれほど官能的な裸婦像を、あなたは他に思い浮かべることができるであろうか。一度、モニターから目を離してしばらく考えてみてほしい・・・
・・・わたしなら、少し格は下がるがラファエル前派のいくつかの作品群、そしてクリムトを思い浮かべるであろうが、それにしても北斎のコレは別格である。
絵本つひの雛形1812年
うつくしい・・・本当にうつくしい・・・人にとって、性の営みとは隠すべき、汚らわしいものではなく、全面的に肯定していいものなのだとこの絵は教えてくれているようだ。
房事が果てたあとの、あの何とも言えない平和な、閉じた眼の裏に薄水色の水平線がずっと広がっているようなあの感じがとてもよく表現されている。
ひとの性行為がすべてこうしたものになったなら・・・あるいはこの世から争いごとはなくなるかもしれない。
浪千鳥
北斎春画の最高傑作といわれる。確かにこのシリーズは人の心を打つ。なぜか・・・それはこのシリーズに登場する男女が、皆ひたむきだからだ。とにかく無我夢中、一生懸命なのだ。
だから、男女ともにその眼は三角に座っており、肌はほんのりと紅く上気しているのだ。北斎の筆先はそのあたりをじつによく表現している。何事につけ、ひたむきに取り組む姿はわれわれの心を打つ。それは性の営みにおいても何ら変わることはない。
あなたはこの浪千鳥の男女のように、ひたむきに性と向き合っているだろうか・・・
映画「北斎漫画」
直接北斎の春画を扱ったものではないが、北斎の人生におけるエロティックな要素を扱っているので是非一度ご覧になると良い。
主演、葛飾北斎には今は亡き緒形拳。北斎の娘、お栄には田中裕子、「海女と蛸」の海女のモデルになんとあの樋口可南子。滝沢馬琴には西田敏行。男も女もみな素晴らしく妖艶な演技を見せている。
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