あなたの知らない素敵なオランダ人

あなたの知らないオランダ人、それも素敵な一枚を描いた人を紹介しよう。ヤン・スレイトルスである。

素敵な一枚

スレイトルスの素敵な一枚はずばり「ラーレンの風景『10月の太陽』」(1910年 ステデリック美術館)である。

ラーレンとはオランダのどこにあるのだろうか・・・のどかな田園地帯には違いあるまい。何が植わっているか分からないが、とにかく何かの野菜が植わっている畑のわきの道を自転車で駆けていく少年・・・(さして根拠もなくわたしはこの自転車の人物が少年だと思っている)朝であろう。この太陽、青く陰った2軒の家、並木が道に落とす陰からこの絵は朝を描いたものではないかと推察する。

一日の始まり・・・これから一日は始まるのだ・・・自転車で急いで向かう先には何があるのだろうか。これから始まる一日への期待や興奮といったものが、色彩にも、筆のタッチにも満ち溢れている。スレイトルスは1881年生まれだから、この年29歳・・・素晴らしい!絵というものは不思議なもので、その時々の作者の心のありようというものを如実に画布に表すのだ。スレイトルスが絵にも、そして人生にも希望を持っていたことが良くわかる。じつに清々しい絵だ。

スレイトルスの人生

スレイトルスはオランダのスへルトーヘン・ボッスで生まれた。なんと、あのヒエロニムス・ボッスの生地である。1900年にアムステルダムに出てきたスレイトルスは国立美術学校で3年間学び、1904年にはなんと「ローマ賞」を受賞して2年間、イタリア留学をする。1906年にはフランスに行き、おりしもパリを席巻していたフォービズムに影響を受ける。1907年、アムステルダムに戻ってくるが、この頃には彼の画はなかなか理解されなくなっており、展覧会にもしばしば落選した。1957年、没。

わたしは彼を「ゴッホとその時代の画家たち 19世紀オランダ絵画展」(1979年)で知ったのだが、その時のカタログでは彼のことを「モンドリアンの色彩の<精神化>を一度も発見できなかった。彼の現実体験は、事物の表面に密着していた」とし、また「作品にキュービスムの要素を持ち込んだが、明らかにキュービスムの厳密に形体的な面に対して興味を抱いていたわけではない・・・彼はただ、彼の作品の表現を高めてくれるような要素をキュービスムから借用したに過ぎなかった」と腐している。

たしかに、彼はその初期に示したような輝きをオランダでは発し続けることができず、画家としては2流の人生を歩んだのかもしれない。

だが、絵というものは偉人伝の中の挿絵ではないのだ。絵というのはそもそも一枚なのである。一枚の絵にだれがどう出会うのか、そしてその一枚がどうであるのか・・・が問題なのだ。そう・・・1979年の名古屋で少年だったわたしには「ラーレンの風景『10月の太陽』」は間違いなくまぶしい一枚だったのだ。

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