「見る」快楽―ゴヤの絵3枚

フランシスコ・ゴヤについては、その人間が面白いために純粋に「見る」ことがおろそかにされがちなように思う。だが、よく見ていくならば、彼の作品、「目の快楽」とでもいうようなものが味わえるものが多いのである。今回はそんな彼の作品3枚を紹介しよう。

ゴヤのひととなり

とはいえ、彼の生涯をざっと振り返っておこう。

ゴヤはスペイン北東部、アラゴン地方に1746年に生まれた。父親は貧しい鍍金職人・・・地方の貧乏な青年にとって、画業を志すのはいつだって並大抵のことではない。雌伏の時期を経て、43歳でようやく宮廷画家となった。

だが喜びもつかの間、46歳で大病を患い、全聾となってしまう。全聾となるも、画業については、彼の傑作はこの時期以降に次々と描かれる。

1808年、ナポレオン軍がスペインへ侵攻、マドリードで虐殺を行い、王位は簒奪されてしまう。そして、王位が元に復すると今度は自由主義者が弾圧されるようになる。国の秩序というのは、一度乱れると落ち着くまでになかなか時間がかかるものなのだ。

ゴヤにも火の粉は降りかかり、やがてはスペインから去ってフランスはボルドーへ亡命してしまう・・亡命先ボルドーで客死。享年82歳。

パラソル

では、ゴヤの作品を見ていこう。まずはプラド美術館所蔵の「パラソル」(1777年)から。タペストリーの下絵として描かれたもので、赤、青、黄の色彩が華やかなのだが、それよりも筆の動きを見てほしい。油絵というものは乾きが遅いので、下に塗った色と上に塗った色が混ざってしまうことがあり、逆にこのことから微妙な色調の移り変わりを表現することが可能で、油絵の魅力となっているのだが、少女の胴から胸にかけて、ウルトラマリンの上をホワイトが滑っていく様はとてもフレッシュだ。スカートのひだの稜線を走る黄色と白の筆の動きもフラゴナールを思わせてとても良いな・・・

カルロス4世家族

1800年、ゴヤ44歳の作である。プラド美術館の至宝の1つである。

この絵については、主題が王の家族であり、早晩訪れるであろう登場人物たちの運命と関連づけられて、その人物描写の方に光が当てられてきた。

だがよく見てみよう。一族を描いている画家とそのキャンバスも描き込まれているが、その裏面がなんとも大胆な筆のストロークで表されているではないか・・・今でいえばゲルハルト・リヒターの絵画である。そして改めて見るならば、王妃のまとう豪華な衣装、王の胸に光輝く勲章は、無数の絵の具の戯れあいである・・・これこそ印象派の先駆けというべきであろう。

イサベール・コーポス・デ・ポルセール

ロンドン・ナショナル・ギャラリー所蔵。1806年、ゴヤ50歳の時の肖像画である。いったい、われわれは学校で「黒」という絵の具の価値を、どちらかというと低いものとして教えられてきているが、じつは黒というのは色として実に魅力的なものなのである。後年、マネが、ルノアールが、そしてマティスが気づくことなのだが、それよりも前にゴヤが気づいていたわけである。

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