ルーベンス鑑賞のコツ

 

ただ鑑賞しているだけでも、ルーベンスは楽しいのだが、知るともっと楽しいことがある。これはルーベンスに限らず、広く絵画を鑑賞するコツだと言ってもいい。

それは背景を知ること、彼の制作に影響を与えた人たちについて知ることである。そこで、今回は彼に影響を与えた2人の人物について書くことにする。

ティツィアーノ

ルーベンスに影響を与えた人物の中でもティツィアーノは最も重要な人物だと思われる。ティツィアーノはジョルジョーネと並んでヴェネツィア派を代表する画家だと言われている。官能的な裸婦像と色彩豊かな画面が特徴である。だが、わたしがティツィアーノを特に重要とする理由はほかにある。

それは、ティツィアーノという人が、おそらく有色下地というものを積極的に取り入れ、油絵具で直に基底材に描き始めた最初の人であろうということである。話が専門的になってくるので簡単に言おう。

それまで油絵というものは真っ白に塗られた平滑な画面に、実物大の下絵(カルトーネという)をまず転写し、白黒の絵の具でデッサンを施した後、油で薄く説いた顔料を何層にも重ねて彩色するという方法を取っていた。油絵は別名、ニス絵とも言われ、木地を生かした透明感のあるものが原型だったからである。

ところがティツィアーノの頃には、油絵具がもっと融通の利く、自由な素材であることが分かってきた。彼は褐色、あるいは赤茶色の地塗りを施した粗目のキャンバスに。輪郭を取ることなく、いきなり油絵具で描き始め、あとから解剖学的に、あるいは遠近法的に整合性が取れたものに修正していくという方法を取った。

この方法を取ると、画全体の動きや色彩について直接目で確認しながら、考えることができる。ルーベンスはイタリア留学でこの技法の有効性について学んだものと思われる。

カラヴァッジオ

カラヴァッジオはルーベンスよりも4つ年上の1573年生まれである。たった4つではあるが、ルーベンスがイタリアに来たときはすでに『聖マタイ伝』で名を挙げていた。

カラヴァッジオは早い時期に、キアロスクーロと呼ばれる劇的な明暗対比の技法が、画面に大きなダイナミズムや深い精神性をもたらすことを発見していた。彼は早世したが、のちにカラヴァッジェスキと呼ばれることになる多くの追随者を出した。

当然、ルーベンスは、今を時めくカラヴァッジオの作品を見ていたであろうし、実際に取り入れていたとも思われる。彼の作品を特徴づけるのは、ひとつには人体のボリューム表現にある。ボリュームがあるものに一方向から強い光が当たると、濃い影ができる。ここまではカラヴァッジオと同じだ。ただし、ルーベンスは影の部分にできる反射光というものを極端に明るく表現した。カラヴァッジオの絵に漂う、どちらかといえばメランコリックな精神性というものは払拭され、ルーベンスの絵は明るく、明快なものになった。

ルーベンス鑑賞の際は、ぜひティツィアーノとカラヴァッジオを見ていかれることをお勧めする。

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